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前回の民間編につづき、今回は警察の警護員についてお話します。


以下、本記事では警護の専門官である警視庁警備部警護課(SP)を除く、警察官一般について記しています。


まず、警察官だから警護の訓練も受けている、出来るはず、と思っている方が多いようですが、それは違います。大多数の警察官は警護についてはまったくの素人と言ってよい、これが実態です。


それでも管轄する地域に警護対象者が来るとなったら、警護に駆り出されているのです。この点については、民間警護員は前回の記事でも紹介した通り、極めて短時間ではありますが教育を受けている分だけ民間警護のほうがマシと言っていいかもしれません。

このような状況で長い間、警察は警護を行ってきました。それが一変したのが、安倍元総理銃殺事件です。


大事件が起こってしまったので、早急に警護態勢を見直す必要に迫られたわけです。


そこで、新たな資器材投入(防弾衝立・ドローンなど)や警護計画書の事前チェック体制等の改善が行われてきたのは報道の通りです。


しかし、一番の課題がまだ残っています。それは警護員育成です。

いくら器材をそろえても、よく考えられた計画を立てても、やはり現場の警護員が優れていなければならないという当然のことが、最大の課題となり残っていると感じます。


長野県警の警護(出典:信濃毎日新聞)
長野県警の警護(出典:信濃毎日新聞)

県によっては、警護なんて数年に一度あるかないかという所もあるわけです。身辺警護を一度も経験せずに警察人生を終える、という警察官のほうが圧倒的に多いという現実。


警護任務が入れば、それに人数を割かれることが負担。でも指示された人手は確保しなければなりません。すると…誰でもいい、頭数をそろえればいい、地域課から若い警察官を集めよう、休日返上それとも非番員を使うか。

余計な仕事が入ったなー

言われた場所に居ればいい、どうせ何も起きやしない…

との発想がないとは言い切れないと思うのです。



道府県で警察本部長が新たに着任すると記者会見を開きますが、安倍元総理の事件以前に「警護」というワードを着任会見で発していた本部長がいたでしょうか?正直あまり記憶にありません。

それがあの事件後は皆「警護の万全を期す」と発するようになりました(最近は事件直後のように警護に触れない本部長が出てきているようですが、また何か起きやしないかと少し不安ですが)。


道府県によって警護能力の差があるか?については、

あります!

しかも結構大きな差があると思います。

警護頻度による差もあるのでしょうが、その組織(●●県警とか▲▲警察署)の警護に対する姿勢によるところの差も大きいと感じます。特に警察組織はトップや上級幹部の考え方で取り組み姿勢に大きな差が生じるわけですが、一日も早く、地域差による警護能力の優劣をなくす・縮めることが至上命題と考えます。


安倍元総理の事件後、警察では警察官に警護レベル付けを行うようになりました。

レベルは7段階。

「レベル1」から「レベル7」です。これは個々の警察官に付けられます。

とは言っても、「レベルなし」の警察官のほうが圧倒的多数です。レベル付けのない警察官は原則として警護に従事させないとしました。


「レベル5」と「レベル6」の間に大きな差があるようですが、「レベル6」を取得するには、警視庁警備部警護課(SP)での1年間の研修を終了しなければならないそうです。

この研修に参加する警察官は、北海道警だろうと沖縄県警であろうと、1年間、東京で暮らし研修を受けます。

時間にすると、2,000時間くらいになるはずです。

できれば道府県警で警護に従事する警察官はこの「レベル6」をクリアした警察官ばかりだと色々な面でよいのですが、道府県警の多くの警察官は、よくて「レベル5」止まり。研修を実施する側の諸々の事情からしても一気に大量に「レベル6」を輩出することは現状不可能です。


一定レベル以上の警護員を養成するには、いかに優れたプログラムであっても、どこの国であっても、ある程度の時間は絶対に必要です。


警察警護の喫緊の課題は、いかに警護に従事させる警察官個々の警護レベルの向上を図れるかにあると思います。まずは各地方で取得できる「レベル5」の警護員を増やしていくことが重要になるでしょう。


*本記事は、警視庁警備部警護課(通称、SP)勤務経験者の監修のもと作成しています。

今回は予告どおり、民間警護員の実態について書きます。


民間警護員の代表格は、警備会社の社員として警護に従事する方々です。

腕っぷしに自信があるからといって、勝手(認可を得ず)に警護・ボディガードをして対価を得ることをしてはいけません。これは法律でそう決まっています。

但し、警護対象者側から直接雇用により警護を行うことは禁止されていません。例えば▲▲株式会社の社員として雇われ、▲▲会社の社長のボディガードを主たる業務として行うなどは規制されていません。



以下は、民間警護員の大多数を占める警備会社所属の警護員についてご説明します。

入社後は、まず法律で決められている教育を受けます。

法律では最低時間と教育項目が決められています。


時間数は、20時間!

しかもこの20時間のうち、半分の10時間は警護以外の教育に充てられるのが常。

つまり警護教育は10時間!!!

でクリアです。

警護訓練中
警護訓練中

そして、多くの警備会社は、最低時間の教育しか行いません。

さすがにこれはマズいだろうと考える会社は、最低時間数を超えて教育を行うところもないこともないですが、会社には優先順位というものがある以上、教育に十分満足するだけの時間を割けない事情も理解しなければなりません。


ただ、警護員・ボディガードとしてのスタートがこうですから、警護の土台なんて築けるはずがありません。何年警護経験があろうが経験を積んだ気になっているだけで、積む土台がないので実際はさほど積めていません。


基本中の基本すら理解する場が与えられていないのは、警護対象者にとっても警護員にとっても不幸であると思います。


そもそも自分を護るために派遣されてきた警護員が、こんな実情と知ったら警護対象者はどう思うでしょう?


いやいや、武道・格闘技のそれなりの経験者なら警護の教育を受けていなくてもイケるんじゃない?

という考え方をする人が、警護に無関係な方がするならまだしも、現役警護員の中にすら存在しているのですが、その考え方は非常に危険です。

目の前にいる対戦相手と対峙することと、自分自身ではなく警護対象者を護ることとは意味が違ってきます。


業としての警護を考えたとき、警護員が戦わなければならなくなってしまった瞬間もしくはその前に勝負はほぼ決まっています。

いつ・どこから・どんな凶器で・何人で襲ってくるか知れない状況で、しかも警護員自身でなく警護対象者を護るなんて神業、あるのでしょうか?


警護の世界では、「襲われたら警護失敗」と言われる所以はここにあります。



信頼第一といわれる仕事の一つであるはずですが、法的にも実態的にも民間警護員になるためのハードルは低いと言っていいと思います。

だからなのでしょうが、ピンキリの幅が非常に大きい世界でもあります。


そこで本学では、警護員の警護能力を可視化したら警護を雇う側も雇われる側も双方にとって有益ですよね、との考えから、Grade制警護認定制度をスタートさせました。

すでに警護員として働いている方、働いていた方々は認定資格試験のみを受け取得することも可能です。



*本記事は、警視庁警備部警護課(通称、SP)勤務経験者の監修のもと作成しています。

こんにちは。

民間警護員の実態をご説明するはずでしたが、予定を変更して、熊本県で発生したコンビニ強盗の犯人が、警察官に射撃を受けた件についてお話します。


この事件については、警察官が犯人に対して発砲した際の映像がテレビで流れた国内では非常に珍しいものとなりました。


無気力そうに見える若い犯人

右手には刃物

2名の制服警察官

1名の警察官は拳銃の銃口を犯人に向け

もう1名の警察官は盾(ジュラルミン製に見える)と警棒


二発の弾を犯人に向かって発射

一発は右足・もう一発は右肩に命中


二発目発砲の瞬間
二発目発砲の瞬間


SNSなどでは、

「当たったのに平気で立ってる」

「小さな拳銃だと威力不足ってことなのか」

「なんで犯人はうずくまったりしないでいられるのか」


というご意見も多く見られました。


そこで、少し解説いたします。

まず、拳銃で撃たれた人の話によれば撃たれた瞬間は、


「熱っ」


と感じたそうです。

これは人によってまた撃たれた部位によって違うでしょうが、「熱っ」という表現、なんかわかるような気がします。

その後遅れてジワジワと痛み出す。


また急所や臓器でなく、肩・腕・足のような部位を撃たれたからといって、動きが急に止まるわけではありません。


警察官に走って向かってくる者に対し、発砲したもののその勢いは変わらず突進してくるものだから、その警察官はてっきり外れたと思った。

しかし実際は、肩に命中し貫通していた、という話も国内で過去ありました。


そして今回の事件、警察官の拳銃使用は適切だったのか?

については、例によって元刑事等のコメントを報道各社で取り扱っていますが、本学の意見もお話しさせていただきたいと思います。


まず前提として、映像を見る限りは銃口の先に犯人以外の人の姿がなく、警告を発し、威嚇射撃を行い、でも犯人が刃物を向けたままの状態を継続した…今回の拳銃使用は適法適切であったと考えます。その上でですが、


あの状況で拳銃撃つかどうかは、その警察官次第です。

もっと言えば、拳銃を抜くかどうか、その警察官次第です。


その警察官が警棒で大丈夫と考えれば、ハッタリ目的(勿論この場合でも適法という点をクリアしていないとだめですが)で拳銃を取り出したとしても撃つことはしません。

警棒で十分対応できる。でも拳銃のほうが自分が危害を加えられることなく逮捕できる。だから拳銃を使う、とは考えません。警棒等で十分ならその方法を選択します。

つまり、撃った警察官は拳銃の使用が必要と考えたから使ったということです。


では拳銃使用の判断過程はというと、

警察官も様々です。腕っぷしに自信のある人ない人。足の遅い人早い人。逮捕術の腕前。拳銃の腕前。本当に差があります。

拳銃使用の要件がクリアされている場合、このような事情が作用されるのは致し方ないと考えます。


ただし今回のように拳銃使用の条件が整った現場ばかりではありません。大勢の人がいる繁華街のど真ん中で刃物持った相手に発砲できるのか、そういうことを想定すれば、これまでも行ってきてはいますが、拳銃を使用しないでも犯人を制圧できるように訓練することは今後も絶対に怠ってはならない点です。


*本記事は、警視庁警備部警護課(通称、SP)勤務経験者の監修のもと作成しています。

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